「近視だと老眼にならない」は誤解?
水晶体が老化で硬くなると、厚みを変えることができにくくなるため、まず近くのものからピントが合いにくくなる(イラスト/竹口睦郎)
「老眼」という言葉のせいで「高齢者がなるもの」と思い込んでいる人も少なくありません。
しかし、老眼の症状は30代から出始め、誰もが避けて通れません。
好評発売中の週刊朝日ムック『眼の病気&老眼がまるごとわかる 2018』では、その原因とメカニズムを、梶田眼科院長で日本眼光学学会理事の梶田雅義医師に取材しました。
***
■人はどうして老眼になるのか?
「実をいうと、老眼は胎児期から始まっているんですよ」
そう話すのは、梶田眼科(東京都)院長の梶田雅義医師です。人間のからだの細胞は常に新しい細胞と入れ替わっていますが、老眼の原因となる眼の「水晶体」は、細胞の入れ替わりがほとんどない特殊な組織なのだと言います。
「水晶体が完成するのは胎児期です。それ以降、水晶体の調節能力はわずかずつですが弱くなり、日常生活に不自由さを感じる段階まで衰えると老眼を自覚するのです」
水晶体とは、カメラでいえばレンズにあたる部分です。非常に高性能なオートフォーカス機能をもっていて、見ようとする対象物との距離によって自在に厚みを変えてピントを合わせています。
水晶体を通過した像は眼球の奥の「網膜」に映し出され、それが視神経を通じて脳に送られることで「ものが見えた」と認識するのです。
ところが、水晶体は加齢によって少しずつ弾力性を失って硬くなります。それが厚さを変える力(調節力)を弱め、近くのものから「見えにくい」と感じ始めます。これが老眼のサインです。
もともと水晶体は、リラックスしているときには薄く、ピントは遠くに合っているものです。脳が「近くを見ろ」と指示を送ると、水晶体を支えている「毛様体筋」が緊張して縮み、水晶体がぐっと厚みを増します。近くを見ることのほうが、水晶体にとっては大変です。近くのものから見えにくくなるのはそのためです。
老眼はその後も進行します。水晶体が弾力を完全に失って、厚みが固定されてしまうと、ピントは一点にしか合わなくなります。それが60歳ごろです。
■近視の人は「老眼に気づきにくい」に過ぎない
近視・遠視・乱視にかかわらず、老眼はすべての人に起こります。よく「近視の人は老眼にならない」「眼のいい人は早く老眼になる」などと言われますが、梶田医師は「それは誤解」と言い切ります。
「近視の人はもともと手元にピントが合っているため、老眼になっても比較的手元が見えやすい。そのため気づきにくいだけです」
一方で、「眼がいい」と言われる遠視ぎみの人は、近くを見ることが苦手。さらに加齢で水晶体が硬くなると、より近くが見えにくくなるため、老眼に気づきやすいのです。(文/神素子)
※眼の病気&老眼がまるごとわかる 2018 (週刊朝日ムック)
※ 以上の内容は「「近視だと老眼にならない」は誤解? 知られざる老眼の仕組みに迫る!〈週刊朝日〉」を引用しています。