「寄った両目が元に戻らない!」スマホ依存で…子供の斜視が増加か

若倉雅登 井上眼科病院名誉院長
秋は学会シーズンです。先日、専門分野が私と重なる兵庫医科大学特任教授の三村治さんの講演を興味深く聞きました。子どもの急性内斜視が増えているという話でした。急性内斜視では、両目が内側に向いたまま戻らなくなる、つまり遠くを見ても目が寄った状態のままになります。

以前は私も小児眼科を扱っていましたが、近頃は「心療眼科外来」が多忙になって、しばらく目を離しているすきに状況が変化していました。当院の小児担当者に聞いてみると、やはり最近明らかに急性内斜視が増えているとのことでした。

韓国で研究論文、日本でも同じ傾向か
原因のひとつは、小中学生がスマートフォンに依存するようになったからだという論文が、2016年に韓国の施設から発表されました。それは、7歳から16歳までの12例(男5人、女7人)の報告です。これによりますと、この12例の内斜視は従来とは少し異なる特徴を持っていました。まず全員が過度なスマホ使用者(過去4か月以上にわたり、1日4時間以上使用)で、1日平均の使用時間は6時間、しかも30センチ以内の距離で画面を見ていました。うち9例は遠くを見るといつも、あるいは時々、水平複視(一つのものが横に離れて二つに見える)になりました。8例は軽度から中等度の近視、残りはごく軽い遠視で、適切な矯正レンズを装用すれば、どの目も1.0以上の視力が出ています。

近いところを見るとき、人は輻湊(ふくそう)といって両目を寄せます。通常、遠方を見るときは輻湊を解除するので、寄っていた目が元に戻るのですが、これらの例では戻りにくいのです。若い人は、目を寄せる動きを促す脳からの指令が強いと考えられ、それゆえに輻湊が続くと指令を解除することが難しくなり、このような現象が生じてしまう可能性があります。

スマホの使用をやめたら改善…手術や薬剤注射を行う場合も
韓国の論文では、スマホを1か月間使わないように指示したところ、斜視角度は全員減少したということですが、5例は手術が必要でした。

三村さんは、ボツリヌスという麻酔作用のある薬剤を内直筋(眼球についている筋肉のひとつ)に少量注射することで改善させうるとの報告をしていますし、私どもの施設でも、この方法や手術での治療を行う機会が増えています。

しかし、治療よりも、そういう症例を出さないことがより大切でしょう。

韓国の論文は英国の眼科誌に発表されたのですが、それを受けて英国の高級紙デイリー・テレグラフでは、この内斜視の話とともに、スマホによる子どもの精神活動への影響や、精子数減少との関係などが記事で取りあげられています。日本でも近年、スマホ依存による学業成績の低下、睡眠障害、暴力などが大きな問題として提起されています。

韓国のみならず、日本でも若い人のスマホ依存、スマホ中毒は、国をあげて考えなければいけない喫緊の問題だと思います。

※以上の内容は「「寄った両目が元に戻らない!」スマホ依存で…子どもの斜視が増加か」を引用しています。